撫でて、やさしく
と歌うその人の声はとてもやわらかく、心地よかった。と思いながら、もうわたしだけが彼の暗いところを知る存在ではなくなってしまったことに、少し嫉妬した。
満ち足りているだろう。自分でもわかっている。優しくて、わたしをまっすぐに見てくれる恋人。泣いていたらよしよしと撫でてくれる、大切な人。その人の腕に包まれながら毎日眠るのだ、安心と満足で、幸せで、当然だ。
たぶん、わたしたちは絶対に一緒になることはなかった。同じようなものを求めるわたしと彼は、一緒にいてはいけなかった。お互いの傷を知り尽くして、必要なときにそばにいて、そういう関係だったけど、そういう関係だったから、一緒になってはいけなかった。だから、今ぐらいがちょうどいいんだろう。


きちんと包み込んでくれる人に会えて良かったね、わたしも、あなたも。
変わらずに、散歩に出たり、電話をしたり、そういうことができて、わたしは嬉しく思う。恋人と、彼と、彼の恋人と、お酒を飲む機会が作れて、良かったと思う。
結婚して、子どもができても、一緒に遊べたらいいな、と思う。