落ち着いた毎日を過ごしている。残業のし過ぎで上司に呼びだされたけれど、精神的には比較的落ち着いた毎日を過ごしている。諦めたからだろう、いくつかのことを。悪いことではない、多くを望まないことは安定した日々には欠かせない条件の一つだ。わたしたちはそうやって少しずつ、誤魔化しながら生きている。そしていつの日か、誤魔化していたことが何だったのかもわからなくなり、曖昧な不安をどこかに置き去りにして生きることに成功する。おそらく、だけど。


髪の毛に金をかけるようになった。一度の美容院で「お会計、一万七千円です」と言われたときはさすがに「まじですか」と口走ってしまったけれど、日々のストレスがこの高いシャンプーと高いトリートメントと高いヘアオイルと高いヘアバターで解消されるならば、それはきっと安いものなのだろう。三十も過ぎたら、さすがに自分のモチベーションは自分で高めないといけないらしい。そういうのは、放置していても誰も何も気にしてくれないから、自分でどうにかしないといけないらしい。それが大人というやつなのだ。わたしはもう、だれがどう見たって子供ではない。
それでも恋人はわたしを子供だと笑う。愛のある笑い。わたしはそうやって笑う彼が好きだから、いつもわざと子供のような振る舞いをしてしまう。いや、わざとではないな、わたしが外で見せることを許されない子供らしさを、彼は受け入れてくれる。

そろそろ付き合って6年を迎える。社会が決めた事柄はあまり気にせずに、二人で仲良く暮らしている。世界が二人だけになったらどれだけ幸せだろうか。雑音もすべてカットして、わたしと彼だけの世界を築きたい。何にも傷つくことなく、悲しむことなく、穏やかな毎日を過ごすために必要な最後の条件は、きっとこれなんだろう。