会話

 「生きてればいいことあるんだよ」って、それはなんつーか常套句じゃね? 死にたいって言ってる人に対してのさ。
 違うんだよ、いいこともあるし、辛いこともある。その「いいこと」だけ取り上げて言ってるだけ。嘘でも何でもない。
 あー、なるほどね。
 ずっと「苦しい」って思ってる人なんかいないんだよ。その逆も同じで。
 そうだね、ずっと苦しいって人はきっと、病気なんだろうね、だから薬を飲むんだ。
 だからさ、楽しいこともあるのかな、って、思うように努力しなくちゃいけない。
 うん。
 笑顔でいるには努力しなくちゃいけないんだよ、肯定するためには、努力は不可欠なんだ。
 あたしもさ、
 うん。
 外で、自分が笑ってればとりあえずどうにかなるか、環境悪くならないよな、って思ってさ、ずっとにこにこしてんのね。
 うん。
 そしたら家で疲れてさ、ひたすら寝るしかないんだよね。これってどうすりゃいいのかな。
 人間に、慣れればいいんじゃないかな。
 人間に? おまえ、あたし今年で21なんだけど。
 そうだけど、人間といることに対して慣れるといいんじゃ、ないかな。
 はは、そうか。そうだよな、ありがとう。やっぱ怖いんだろうね、人の目を気にし過ぎる傾向がいまでも強いんだ。
 三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。
 そのとおりだと。


 「まずは受け入れること」でしょ? わかってるんだよ、どう考えてもつまらないって。
 知ってたんだ。
 ただ、それに気付いていたけれど、それも含めて彼等のことが好きなんだよ。わかる?
 うん。
 盲目っていうけどさ、あたしそこまで盲目じゃないんだよ。ちゃんと理解はしてる。それでも好きなんだよ。
 なるほどねー。


 ごめんねー、もう6時だ。
 4時間も話してたのか。
 なんかねぇ、ごめんね、アホみたいに話して。でも楽しかった。
 いいよ、夜中に電話するのなんてきみぐらいだし。
 ほかの友達には?
 しないよ、迷惑だもん。
 なるほどねぇ。


 会いたいって思ったらもうだめなんだよ。そこから我慢出来なくなる。
 だからさ、それは自己規制が出来てないんだよ。
 うん、知ってるって。だから彼は夜中に自転車飛ばして恋人に会いに行ったんじゃないか。
 うん。
 それはつまり、彼は自己規制が出来ていないってことなの?
 違う、あいつは違う。あいつはそういう、なんだろうな、小さな石ころみたいのを気にしないで進める。俺は違う。
 そうだね、でも、きっとわたしも、本当に会いに行きたくなったら行くんだと思う。歩ける範囲ならね。
 俺には理解出来ない。でも、歩ける範囲なら、行くかもね。


 「死にたい」って言っててもさ、ご飯食べるしバイトするし、結局死なないんだよ。
 そうなんだよね、暗いのは続かないから。
 たまにそれが、すごく格好悪いと思う。矛盾してるなぁ、ってね。
 矛盾しててもさ、生きてるんだよ。格好悪くても。それはもう、仕方がないんだよ。


 イメージカラーは、青だったのが、黄色と黄緑になったよ。太陽か樹だよ。
 より平和に近付いたのか。


 …と、こんなことがあったんだよ。
 あんたさ、すごくクールにしてるけどさ、内心万々歳だったんでしょ。
 え?
 もうあれでしょ、脳内優勝パレードとかするぐらい嬉しかったんでしょ、声でニヤついてんのわかるんだよ。
 いやっ、そ、そんなことは、ない。
 うそつけ!


 俺酒飲むと余計なことまで言うからさー、普段言わないような。
 あとあれだよね、お酒飲むと甘え始めるよね。
 いやいや。
 うそつけ、お前めちゃくちゃ甘えるじゃないか。
 いやっ、そ、それは、ない。
 うそつけ!


 文学に於いて大切なのは表現力と想像力なんだって。
 あと社会経験でしょ?
 いや、なんだっけな、社会経験が豊富でもその人に力が備わっていなかったらいけないんだって。
 社会経験は前提?
 いやだから、社会経験の有無じゃないんだって、今の話。
 なんで?
 あのね、その人の想像力でどんな人にもなれるの。たとえばシェイクスピアリア王にも
 俺ロミオとジュリエットしか詳しく知らない。映画クソだったけど。
 あれ、タイニックじゃなくて?
 ディカプリオしか合ってません。


 じゃ、また来月会おう。
 来月?
 ダン博だよ。そのときまでに聞いておきたかったこと思い出せたら、そのときに聞く。
 そうしてもらえるとありがたい。
 じゃ、おやすみ。
 おやすみ。
 …。
 …。
 切れよ。
 いや、切ってよ。
 じゃあ切るよ。ありがと。またね。
 はーい。おやすみー。
 おやすみー。


 プツッ