水炊きを食べた。二人でそういうお店に行くのはたぶん初めてで、いつもなるべく人のいないところとか、すぐ出られる場所とか、そういうお店でご飯を食べていた。若しくはうどん屋さんとかお蕎麦屋さんとか、すっきりしたところ。
外食出来るようになって良かった、と彼は喜んでいた。おいしいね、と言いながらくたくたに煮込まれた野菜を食べた。お肉も食べた。二人が好きだから、馬刺しも食べた。


誕生日おめでとう、と小さな声ではにかみながら鞄の中から華奢な紙袋を取り出した。あらまぁやだ、気を遣わなくていいのに、と照れながら受け取って、開けてもいい?と聞いた。うん、と彼はにこにこしながら頷いて、わたしを見ていた。
何週間か前に、ふらりと立ち寄ったお店の箱だった。紙箱。「いつもここの欲しいなって思うんだけど、高くて買えないから我慢なの」というわたしの言葉をきちんと覚えていた彼は、わたしがやれ盛岡だやれ岡山だとアホのように遊び呆けている間に、一人でお店に行って、一人で店員さんに相談し、一人で買い物をしてきたのだ。
買いに行くの楽しかったよ、と微笑む彼はなんだかもう世の中の汚いものとか見たくないものを全て浄化してくれるような、そんな風だった。箱を開けたら二つのネックレスが入っていた。紫の小さなハートと、蝶々の、二つだった。あまりに感激したのと気を遣わせてしまったことについてのなんとも言えない気持ちが混ざり合って、ありがとう、と言いながら大泣きしてしまった。あははと笑う彼はとてもとても嬉しそうで、ネックレスを身に付けるわたしを満足そうに見ていた。
あのね、二つつけるときは蝶々が下で、ハートを上にするんだよ、と店員さんに言われたことをそのまま伝えてくるのがなんだかかわいくて、えへへ、と笑ってしまった。似合ってて嬉しい、と彼も笑っていた。