何がとんでもないんだろう、と考える。


彼のことを説明するときに、「深夜に電話をくれていた人」としか言いようがなくて、それ以外には「小説家を目指していて」「働いていなくて」「高校の同級生で」と続く。大抵の人は、物書きを志す彼を笑う。現実味がない。確実にデビュー出来ない。独り善がり。そう言われることをわかっていながら彼の状況を他人に話す自分もどうかと思うのだが、なんとなく心のどこかでは自分もそう思っている気があるのは否めない。この年にして働かないという選択をするのはなかなかリスクの伴うことで、それでもわたしは彼のことがとてもとても大好きだったし、今でも大好きだ。

その彼と神宮外苑の並木通りを歩いたこともあった。急に呼び出されてカラオケで一晩過ごすこともあった。家に呼ばれて延々と作業していたこともあった。ただ、どれもこれもわたしが「女」として存在している時間は、恐らく皆無だった。
それが崩れたのが去年の秋のことだった。わたしは服を脱げばどこにでもいるただの「女」で、彼も服を脱げばただの「男」だった。動物でしかなかった。


悲しくなってきたからやめる。わたしは、そんな関係じゃなくて、魂の穴を埋め合うような、そういう二人であり続けたかった。自意識過剰じゃなければ、彼にはわたしが必要で、わたしにも彼が必要だった。上着、脱がなきゃよかったのにね。この馬鹿女が。