色褪せていく

昨晩、バイト帰りにアパートの最上階の階段に座り、東京タワーを眺めながら缶ビールを飲んだ。わたしの中で「夜中に酒を飲む」という行為はなんだかとてつもなく素敵なことで、慣れないモルツの味に嫌気を感じながら寒さと戦っていた。前に高校の友達と二人で飲みに行ったときもモルツを飲んで鳥肌が立っていて、きっとわたしにはあの味は合わないんだと思う。エビスとアサヒしか飲めないわたしは、少しダサい。それ以前に、わたしは酒が弱い。すぐに酔うんだ。
大学の授業が始まって2週間になる。わたしは来年から進むゼミについて考えている。古典文学をやろうか、近現代文学をやろうか。それとも現代語学か、古語についてか。いったい何を勉強するのがわたしにとって一番有益なのかさっぱりわからないし、自分が何をやりたいのかすらもわからない。わたしは今茶道部でお茶なんて点てている場合ではないのだと思う。それよりもっと考えなくてはいけないことは山積みで、いつもそれから逃げている。逃げてはいけないことから逃げ続けているとどうしようもないことになるよ、なんてそんなことはきちんと理解しているのにね。それにしても、少し前まではあんなに「近代文学!」とか叫んでたのに、最近はなんだか源氏物語にも魅力を感じてしまって、迷うなぁ。わたしは別に作品の背景をきちんと勉強したい、とかその作家の生涯について研究したい、とかそういうものは特にないんだよ。今日も教授が言っていたけど「正しい読み方なんてないからね、みんなが良いって言ってる作品でも何も感じなかったらそれでいいんだよ」って、それが今は少しだけ励みになって、なんとか捕まっていられる。わたしは周りの友達みたいに作家そのものを自分の奥底まで浸透させるなんてことは出来ない。私生活の会話レベルにまで登場させることなんて出来ない。気持ち悪いとさえ思う。それでもやっぱり、こうやって文学かぶれ、みたいな生活を送るのも今しか出来ないんだから、なんだかんだで近代文学のゼミを取ろうと躍起になるんだと思う。行けるといいなぁ。
昨日はずっと東京タワーを見ていた。父親のことを思い出した。10年と少し前の家庭を思い出した。わたしはもっと、人生ってものは順調に進んでいくものだと思っていた。高校生になったら素敵な彼氏が出来て、大学生になっても素敵な彼氏が出来て、就職先でも素敵な彼氏が出来て、そのまま素敵な旦那さんを持って子どもを産んで、年を取って死ぬんだと思っていた。何度も飛び降りたくなって、何度も身を乗り出した。わたしは飛べない。飛ばない。
芥川龍之介についての話を教授から聞いていると、なんだか自分まで暗くなってしまって、どうにもこうにも。前期に休み過ぎて単位を取り損ねて、今期また再履修でお世話になるロシア文学の先生に「まぁそれも、文学っぽいよね」と言われた。文学っぽいって何だ。
自分は平凡で普通で何もないと思っていた。でも他人と話すときにとても緊張してうまくいかなくなるのは、きっと普通ではないことなんだと思う。そんなところで異常に、異端になりたくなかった。普通でいたかった。